【随想】狭間の人ーバブル期と就職氷河期世代の狭間で生きてきたハザマさんの話ー(3/4)

ハザマさんイラスト3 Essay

<<狭間の人ーハザマさんの話ー(2/4

非正規社員でなければ採用しない企業

独り暮らしの生活は厳しかった。

ハザマさんは非正規の仕事をを3つ掛け持ちした。

ある日、栄養が足りなかったのか食べ物を口にした途端、前歯が折れた。

健康保険料を納付していたにもかかわらず、よりによって保険のきかない治療になるということで、すぐには歯医者へ行けなかった。

体力も限界に達していたハザマさんは、なんとか前歯を入れ、正社員の仕事を探した。

そして、正社員ではないが、正社員の後任として新たに契約社員を募集している求人を見つけた。

誠実に仕事をこなせば、もしかしたら正社員になれるのでは、と考えたからだ。

求人が正社員でない理由を、面接官はこう説明した。

「不景気で、こちらも不本意ながらあなたのような中途採用者を契約社員として雇わざるを得ない状況です。できれば新卒採用で正社員を雇いたいです。男性なら考えなくもないのですが」とのことだった。

ハザマさんは食い下がった。

「なぜ同じ仕事で男性なら正社員で、女性はそうではないのでしょうか?」

男性面接官は「それは男性が家族を養うからです。それに女性は結婚して仕事を辞める可能性がありますから」

とのことだった。

既に1986年には男女雇用機会均等法は施行されていたが、企業面接ではまだまだこういう発言は普通にあった。

その時ハザマさんは、女性が家族を養っている家庭を知っているし、結婚しても辞めないかもしれないし、そもそも結婚しないかもしれない。それに本人のジェンダーアイデンティティが男性ならどうするのか。また正社員の前提理由が「男性が家族を扶養するからだ」というなら、ずっと単身の男性には当てはまらない前提になるのでは、などと考えたが口にはしなかった。

とにかく少しでも安定した身分で働きたかったからだ。

今、考えると、面接官は総務課の方で、個人的なジェンダーバイアスもあったかもしれないが、日本のサラリーマン家庭の扶養控除や手当が頭にあるようでもあった。

ハザマさんは口惜しかったが、生活のためと割り切り、涙を呑んで契約社員で入社した。

そして1年が経ち、仕事にも慣れてきた頃、とうとう正社員登用への道はないのか訊いてみた。

「契約社員という条件で入社したはずですよね。それが嫌なら他へどうぞ」とのことだった。

そしてこの担当者(ハザマさんの上司)は「(ハザマさんが従事する前からの期間分を含め)事務監査のミスが判明したらあなたのミスということにするのでよろしく」と付け加えた。(幸いミスはなかった)

結局ハザマさんは、法律より違法な社内規定が優先されるその民間会社を辞め、地元の役所の非正規雇用の職に就いた。

正規職でなければ結婚できないという見合い相手

ハザマさんは奨学金の返還をしつつ、なかなか貯金(結婚資金)もできないでいたが、普通に家庭を持ちたいと考えていた。

両親のすすめで結婚紹介所に登録したところ、めずらしく30代のハザマさんに後妻希望ではないという相手から見合いをしたいと告げられた。

会って話をしてみる。

相手の男性は、

「役所にお勤めと聞き、公務員だと思っていました。ハザマさんが非正規職員ということは、福利厚生なども十分ではないですね。今の世の中、女性も家計を負担してもらわないと困りますから非正規ではちょっと…」と迷惑そうな顔をした。(後で、お相手も非正規雇用労働者だったことがわかる)

結局、仕事にも家庭生活にも体力も気力も発揮できる年頃のハザマさんに、世間の行き場はどこにも用意されていなかった。

「勝ち」でも「負け」でさえない狭間

その頃の役所の非正規雇用職員仲間も、就職氷河期のために就職を先延ばしにして大学院で学んだ高学歴同世代の人たちが、高卒の課長の下で働いていた。

そういう人たちは、課長の求めでパソコンの使い方をアドバイスするなどしていた。

世間では、30代以上・子供を持たない未婚女性を「負け犬」と表現した本(『負け犬の遠吠え』酒井順子著)がヒットし、流行語になっていた。

その定義は、女性自ら、結婚や家庭よりも仕事ややりがいを選んでいる人を指しているという。

生活のために目の前の職にありつき、ただこなしているハザマさんにはまたも関係がなく、ハザマさんは「負け犬」でさえなかった。

ハザマさんは世間の狭間の谷底に突き落とされた気分だった。

それからしばらくして役所内で、めずらしくハザマさんの年齢で採用される正規職員枠に求人が出た。

こんなチャンスは二度とないとすぐに応募の電話をすると、

「この求人枠は震災で被災された方を対象にしております」とのことだった。

狭間の人ーハザマさんの話ー(4/4)>>

コメント