【随想】狭間の人ーバブル期と就職氷河期世代の狭間で生きてきたハザマさんの話ー(4/4)

ハザマさんイラスト4 Essay

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「自分の子育て」ではなく「他人の子育て」

ハザマさんは結婚適齢期にあたるこの期間、ずっと非正規雇用労働者で、結婚資金の準備もままならなく、縁にも恵まれなかった。

だから自分の家庭を築いたり子どもを得る機会がなかったが、その間、ハザマさんは他人の子育てに何度も協力した。

産休・育休に入る正社員の席をあたためておく代替職に、3回ほど就いたのだ。

出産を終え、育児に一段落した女性正社員が無事に会社に戻るとハザマさんは任期終了となる。

ハザマさんが残る席を用意できるような余裕は、企業にはなかったのだろう。

「子育てサポート充実」と謳う企業でも、時短勤務の配慮がされる数少ない正社員の残りの勤務時間を、実家に子どもを預けてシフトに入る非正規社員が埋め合わせる姿を見てきていた。

ハザマさんは、また新たな生活の糧を探した。

ハザマさんの居場所

職業紹介担当者からは「あなたの年齢、経歴で、仕事を選べる立場なのか」と言われ、手あたり次第にできる非正規雇用の慣れない仕事を転々とし、とうとう30年が過ぎた。

その間、少しづつ行政による「就職氷河期世代」の再就職支援活動も活発になったが、ハザマさんはバブルと氷河期の狭間の人なので、生まれ年による求人条件のほとんどが対象外である。

つい先日辞めた職場で、某大手企業から最近中途採用された男性社員が話しているのが聞こえた。

「あの人、何でここで非正規のルーチンワークしているんだろう」

「世の中には、毎日同じ仕事を繰り返すのが好きな人もいるのよ」と女性社員が答えていた。

ハザマさんの手が止まる。

「それは、違う」と言いたかったが口に出さなった。

ハザマさんは、その間、何度か絵を描く仕事にも挑戦した。

デザインやイラストの仕事を探そうと、作品の応募もした。

しかし社員としての採用を断られた直後に、応募した作品とよく似たイラストを街や媒体で見かけることが何度かあり、不信感からもう企業に作品を送ることをやめていた。

最近、また新たな職探しの面接で、

「なぜ、これまで正社員にならなかったのでしょうか」

「ご家族は…ご結婚はされていないのでしょうか」

と訊かれるという。

世間は相変わらずである。

ハザマさんは言う。

「もう、疲れました。私はこの30年間、それを得ようと努力しましたが、叶いませんでした」

日本は今後、少子化で労働力不足になるだろうといわれている。

ハザマさんとしては、少子化にならざるを得なかったのは当然のことのように思う。

ただ、非正規雇用労働者の環境も、法律上は以前より改善された。

一部に、労働力不足を少ない若者や外国人で補うよりは、ハザマさんのような世代の非正規雇用労働者で補う方が、日本語や日本の生活習慣を説明する手間もなく我慢強い(理不尽な環境で耐えてきた実績のことだろうか)のでは、という話も聞く。

誰かの犠牲の上に成り立つ豊かさが、本当に豊かな社会といえるのだろうか。

自らの将来の芽を摘み取って他人に分けられるほど豊かな社会なのだろうか。

ハザマさんは、これからどうしていくのだろう。

ハザマさんはしばらく俯いていたが、顔を上げて言った。

「あの頃投資していた外国人が成長し、活躍できる時代が来たのですね。インターネットで世間も以前より拡がりました。ただ、狭間の私は身近な世間のメインストリームには、これからもいないでしょう」

ハザマさんは残りの人生を、多少拡がった世間の中で、できれば自分の足で歩みたいとのことである。

世間の狭間にハザマさんあり!

テクノロジーも日進月歩で進化している。

大いに活用して労働環境を改善し、働く人それぞれが働きながら自分の人生を歩めるようにすれば、心から幸せを感じられる真に豊かな社会になっていくと思うがいかがだろうか。

(了) 

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