【随想】東京都内、天と地(下)の中間地点はどこか

下水管内部入口までの通路 Essay

都内で行ける一番高いところ

少し前に山のアパートを出、平地のさらに小さなアパートに引っ越した。

山を下りて空気感も変わり、公園の高鉄棒にぶら下がってふと考えた。

「都内で行くことのできる中間標高地点は、一体どこなのか」

都内で一番高いところは、当然「東京スカイツリー」と思いきや、私が足を踏み入れられる限界の高さは、天望回廊で地上450mということであった。(押上1丁目の標高0.8mを加えても450.8m)

それより高かったのは高尾山(599.15m)だったので、行ってみた。

歩く距離も時間も程よく、体力にあまり自信のない私も頂上まで登ることができた。

途中、川のせせらぎの音を聞き、新鮮な空気を吸い、花を愛で蝶と戯れつつ山頂に着き、程よい疲労感や達成感と共に富士山を眺める。

日本一高い富士山でも、山頂から富士山は望めないのであった…

帰りのリフト(高尾登山電鉄)の浮遊感といったら!

高尾山リフトからの眺望

らん、らんらら、らん、ら…

都内で行ける一番低い(深い)ところ

どうも、地上に舞い降りた天…

…狗でござる。何か? 続けて参ろう。

では、地上に戻ったところで低いところはどこだろう。

建物では、国立国会図書館の地下8階(30m)だそうだが、もっと深く我々が行ける場所は大江戸線の六本木駅(42.3m)だそうだ。

しかし、今回はふだんあまり行くことのない、近くて深い場所へ行ってみた。

日本で唯一下水道見学(地下約25m)ができるという施設、「小平市ふれあい下水道館」だ。

小平市ふれあい下水道館

入口のビオトープでトンボがお出迎え。

玄関前のビオトープ

江戸時代には、日本の都市でエコ社会が完成していたということは聞き知っていたが、当時の資料の展示により改めて納得。

江戸の下水道整備について
江戸の町触
江戸の下水道維持管理

明治維新以降、新政府は欧米諸国を手本として富国強兵・殖産興業の道を歩み始めた。東京の急速な変化は江戸時代はそれなりにバランスのとれていた都市基盤施設の不足をさらけ出し、都市環境を悪化させていった。このような状況で、開国により外国からコレラ菌が侵入し、2~3年ごとにコレラの流行を見るようになった

「小平市ふれあい下水道館」展示資料より

長年暮らすことで生まれた知恵により工夫された発展都市が、急速に他国の生活スタイルに合わせることでバランスを失い、後退しつつも歩んできた歴史を知ることができる。

新しい手法を取り入れるときは、真新しさや利便性だけを見て早急に進めるのではなく、受け入れる側の状況や状態に合っているか、もしかしたら新しい方法を知った上で、現実(場)に合った他の方法があるかもしれないという可能性を考えることは大事だなぁと、改めて思う。


メリットやデメリット、他の方法など、持続世界に向け最善策を都度考えることは、遠まわりに見えて実は必要な過程(時間)なのかもしれない。

水のカスケード利用

海外で行ける地下施設一つ

下水道見学に因み、海外施設を一つ紹介しよう。

フランス、パリの「パリ下水道博物館(Musée des égouts de Paris)」である。

1867年のフランス、パリ万博時に下水道見学ツアーが開始され好評を得、1975年にオープンした施設は、規模も大きく見応えがありそうだ。(2021年改修後再オープン)

パリの下にはもうひとつのパリがある。それは下水道のパリで、通り、十字路、広場、袋小路、大動脈があり、交通は泥沼で、人間の形はあまりない (Paris a sous lui un autre Paris; un Paris d’égouts; lequel a ses rues, ses carrefours, ses places, ses impasses, ses artères, et sa circulation, qui est de la fange, avec la forme humaine de moins.)

ヴィクトル・ユーゴー『 L’Intestin de Léviathan』より

美しい地上のパリの街中では見えないものが、地下の下水道から見えてくるかもしれない。

都内で行けるかは条件による中間標高地点

ここまで、一般の人が行ける東京都内(2023年7月現在)の高いところ、低いところを見てきた。

標高の高いところ、高尾山(+599.15m)と低いところ、大江戸線の六本木駅(六本木駅の標高30.6m-駅の深さ42.3m=-11.7m)の中間地点を概算で計算すると、

(599.15-11.7)/2=293.725で、約294m地点となる。

よって、中間層は…

麻布台ヒルズ森JPタワー(麻布台1丁目の標高25.6m+建造物の高さ325m=約350m)でいえば、上層階あたりのオフィスかレジデンスだろうか。

また、2028年竣工予定のTorch Tower(大手町2丁目の標高2.9m+建造物の高さ390m=約393m)だとどの辺りだろう…やはり上層階にあるオフィスになるだろうか。

上層だけど中間…?いや、標高の話である。

地上からも地下からも見えないもの

都会に超高層建造物が建つという話を聞くと、1920年代、フリッツ・ラングがニューヨークの摩天楼に圧倒されて制作した映画『メトロポリス(Metropolis)』(1927年)を思い出す。

新しいタワーにはホールや庭園、地下にはコージェネレーションシステム…ますます映画のあの高層階や地下世界のシーンを想像してしまう。

以下は、映画の中の予言である。

脳と手の媒介者は、心でなくてはならない

映画『メトロポリス(Metropolis)』(1927年)より

タワーは下水ポンプ所跡に建つということだ。

地上からは目に見えない下水道は、タワーや周りの国や都市の主要な機関ともつながっているだろう。

しかしそのどちらも内から見る機会があまりない場合、見えないものを見る方法は、いよいよ「心」しかないのだろうな。

大切なものは、目に見えない (Le plus important est invisible)

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま(Le Petit Prince)』より

国内で行ける一番低い(深い)地下施設

さらに深い施設に興味のある方は、
岐阜県飛騨市神岡鉱山内にある日本最深地下研究施設「スーパーカミオカンデ」(地下約1000m)へどうぞ。

※ここでは人が歩いて行ける山や建物(施設)を対象としたが、この他、路線などの限られた地点では、都内、国内においてさらに深い場所があることを申し添えておく。また、記事内の標高計算数値は、国土地理院のWeb地図「地理院地図」を参考にした。計算結果はあくまでも個人的解釈によるため、実際とは異なることをあらかじめご了承いただきたい 。

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